怪しい娼婦から「クロエ」はスタートします。艶めかしい娼婦クロエです。少女のような風貌と内に何かを秘めた怪しい美女。彼女のモノローグは文学的です。
その彼女の仕事シーンを窓からぼんやり見つめるのは産婦人科の開業医キャサリン。オーガズムについて患者に語ります。ちらりと、彼女自身が性的に問題を抱えているような素振りも感じさせるよい登場シーン。ジュリアン・ムーアの大人の演技です。
ところ変わってこちら大学の先生はちょっとスケベそうな、それでいて学生にも人気の脂の乗った男。リーアム・ニーソンが演じるデビッドです。
このおっさん誰?と思ったらキャサリンの夫です。
ところ変わってこちらデビッドのおうち、奥さんキャサリンは夫のサプライズ誕生パーティを企画していてお客さんだらけです。夫の帰りを待つだけです。何という金持ちのゴージャスなおうち。大学教授と産婦人科開業医の金持ち夫婦ですねえ。
で、パーティやってんのに夫が帰らない。
「飛行機に乗り遅れちまった。めっちゃ遅くなるけんね」奥さんショック。パーティまで企画した誕生日なのにどうして帰ってこないのぷんぷん。
この件がきっかけで、夫の不倫を疑うキャサリン。翌日夫の携帯を覗き見すると可愛子ちゃんの学生といちゃいちゃしている写真はっけーん。
「あqzswxcでfrvhぬいjmこ、l。p;・!」インテリ金持ちとしては嫉妬に狂った姿は見せられぬ。だけど不倫を確信してもだえ苦しむキャサリンです。
そもそもこのへらへらしたスケベ親父、いつもいつも誰とでも浮気しまくってるのと違うかいな、とまで疑います。
で、ですね、あろうことか、偶然知り合うことになった娼婦クロエに「夫を誘惑してみておくんなはれ」と依頼するんですねえ。インテリ金持ちのすることはわかりません。あほですねえ。
さてこの後お楽しみの展開が待ち受けます。
クロエの報告をカフェで受けるキャサリンのもやもやは増幅するエントロピーの如くです。屈折した性的欲求と不満と疑心暗鬼。不穏な空気。事実がどこにあるのか誰にも見えない。どうなるんですか。どうなりますかこの後。
と、このようなお話です。ミステリアスでスリラーで怖くて官能です。ぐいぐい見せます。
見終わって、何がいったい全体これほど面白かったのか考えます。
まず何と言ってもクロエの魅力です。クロエを演じるアマンダ・セイフライドは、今風って感じの少女の面影を残すスーパー可愛子ちゃん。透明感があり、謎性も併せ持ち、眼光鋭く文学的です。この人の魅力がなければ成り立たないお話です。もう何をさておいてもこの子を見ているだけで幸せです。
ジュリアン・ムーアの成熟した演技も重要。この人の力がなければ成り立たないお話です。きつい役をこなしましたね。尊敬。
全編を占める文学性がことさら重要です。エロティシズムを流れるような言葉で表現することが「クロエ」の大きなテーマです。こんな文学的なお話、ヨーロッパ映画みたい。
さらに、この作品では随所にカフェやバーやお店が出てきます。
何かのたびに人々はふらりお店に立ち寄り、そこで会話をし、エロスを体験します。
へえ。アメリカ人も裕福な階級の人はこうやってちゃんとカフェに出向くのか、と感心しましたが、どうもアメリカっぽくない。どう見てもフランスっぽい。クロエがカフェから自転車に乗って立ち去るシーンとか、実に不思議です。ここどこ?フランスじゃないですよね。カナダ?
まあなんせ暮らしや文化や人物や物語が(オチ以外は)アメリカっぽくないんですよね・・
といつまでも引っ張ってないで答えを書きますが、この「クロエ」は、2003年のフランス映画「恍惚」のリメイクでした(リメイクというか、「恍惚」をベースにした新展開?)
アンヌ・フォンテーヌ監督、ファニー・アルダン、エマニュエル・ベアール、ジェラール・ドパルデューという超すんごい役者たちによる官能の物語。クロエに匹敵する娼婦をエマニュエル・ベアールが演じますよ。ファニー・アルダンとエマニュエル・ベアールの、あの、その、うおおおおお(←興奮しすぎ)
スタッフクレジットを調べていましたら「オリジナル脚本」として「恍惚」のアンヌ・フォンテーヌも載っていました。movieBooでは適当な欄がないので「原案」のところに入れましたが「オリジナル脚本」のクレジットはどういう意味でしょう?単にオリジナルである「恍惚」の脚本だからかな?何かしら「クロエ」の脚本に関わっているのか、そのへんはよくわかりません。
いずれにせよ「恍惚」は観ずにはおれません。そのうち手に入れて観ましょう。
[追記 その後感想書きました→恍惚]
元の映画はまあとにかく、こちら「クロエ」はこれはこれで魅力的だと思います。良さげな「恍惚」のリメイクであるからして、ジュリアン・ムーアやリーアム・ニーソンなど実力派の大物も惜しげもなく投入します。
そう思うとエマニュエル・ベアールにあたるクロエ役のアマンダ・セイフライドの勇気ある起用と、それに完璧に答えた魅力と演技はよろしゅうございました。スタッフ・キャストとも頑張りました。
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