アンノウン

Unknown
「96時間」で渋い親父アクションを見せたニーアム・ニーソン主演の謎サスペンス。監督がジャウマ・コレット=セラっていうのでこれは注目。
アンノウン

ジャウマ・コレット=セラは言わずと知れた「蝋人形の館」「エスター」の監督さんで、オーソドックスの中にぴりりと個性的なる演出を施す才人であります。
「アンノウン」は何やらサスペンスだな、という程度の認識で拝見しました。この手の映画は事前情報なしに挑むのが楽しむ秘訣です。

いきなり登場するのが「シンドラーのリスト」の・・・というより近ごろでは「96時間」のニーアム・ニーソンです。
学会で講演するためにドイツにやってきたドクターですって。この学者さんが異常に別嬪の嫁はんと共に飛行機から降り立ちまして、まああなた、ここからの冒頭はいい掴みですよ。
タクシーに乗りましてホテルへと直行、そこで「あっ空港に鞄忘れたっ」と気付きます。
ドタバタドタバタ、あれよあれよの展開に冒頭から釘付けです。このドキドキというかイライラというかそわそわの演出、これ流石に上手ですね監督。
ここでのタクシー運ちゃんがこれまた別嬪お姉さん(ダイアン・クルーガー)で「ははぁ。この人、後で出てきて一緒に活躍するのね」と誰しも合点します。安っぽい演出ですが、それは今後の展開を示唆する親切設計なわけです。またはこの映画が「皆で楽しむ娯楽作品ですよ」との宣言でもあるわけです。これにより、必要以上に恐怖感を感じる必要がないとわかります。

さて「アンノウン」ですが、もしかしたら配給の宣伝的には「96時間」的なアクション活劇のイメージを押し出していたかもしれません。
もしそうだとすれば、それはちょっと違っていて、「少し渋めのスリラー」だと思って見る方が楽しめます。
私は「もっと渋めのスリラー」だと思い込んでいましたのでラスト近くの展開をやや(いい意味で)呆れつつ楽しめましたが、最初から「アクション活劇」映画だと思ってしまうと、それは観客としては結構損かもしれません。

さて大変な目に遭ったドクターの身に降りかかるさらなる苦境、気がつくと異国ドイツで自分のことを誰も知りません。「お前誰やねん」「わしやがな」「知らんなあ」と、そんな目に遭ってしまいます。別嬪の嫁はんも知らん顔です。「おいお前、わしやわし」
「あんただれ」
「何言うとんねん、わしやがな、お前のダ・ン・ナ」
「旦那はこっちのこの人です、あんたなんか知らん、気色悪いなあっち行ってんか」
「ちょ、待てや。どないなっとんねん。おかしいやないかい」とドクターは慌てます。

何で誰も自分を知らないというのか。CIA秘密工作員の陰謀か。愛を求める宇宙人の罠か。リコール社の夢か。それとも、ほんとうは自分は自分ではないのか。自分は病気か。

アイデンティティの喪失感にも繋がるミステリアスなストーリーが展開します。謎あり不安感あり、ついでに何のためやらカーアクションまであって盛りだくさん。
適度な盛り上がりも含め、練り込まれた脚本もいいし大いに楽しめます。意外なオチも小気味よく嫌みがありません。

で、ですね。褒めちぎっておすすめしまくるかと言いますと実は微妙でして、正直な感想を申し上げますと、この「アンノウン」は否定すべきところが全然ない大変おもしろい映画ですが、特別褒めるような個性的なところも特に感じられないという、いわゆる普通の映画でした。
期待していたジャウマ・コレット=セラ監督の個性的演出も、これまでの作品と比較して弱いです。雇われ監督っぽいといえば言い過ぎでしょうか。
監督に期待しすぎていたのかもしれません。期待値が高い場合、出来が良くても満足できなかったりするのは皆様経験しておられるだろうと思います。

映画にとって、いや、表現者の誰にとっても「普通やな」と言われるのが最も辛いところです。一所懸命作った作品が「普通やな」で済まされる衝撃、これはある意味糞味噌に貶されるより屈辱的です。
「よく出来た普通」
うーむ。なんだか酷い評価を下しているようで気が咎めますが「蝋人形の館」と「エスター」を撮ってきた監督ですからねえ、どうしても並以上を期待してしまうんですねえ。

あ、そういえば少し個性的な部分ありました。
ブルーノ・ガンツとフランク・ランジェラです。このふたりのおじさんを登場させたのは「アンノウン」の救いですね。なかなかきらりと光っています。

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