トム・クルーズとキャメロン・ディアスによるアクション映画と聞いて、いったいこの映画に何を期待するというのでしょう。トム・クルーズは阿呆顔(映画部奥様談)だしキャメロン・ディアスは変な育ち方してる(映画部長談)し、今更スパイアクションだし、どうしましょう、どうすればいいのでしょう。しかし実はこれ、意外にいいんです。
「ナイト&デイ」を見ようと思ったのは監督がジェームズ・マンゴールドだからでした。娯楽ミステリーサイコサスペンスの「アイデンティティ」がめちゃめちゃ面白かったのですよ。
この監督、きっちりしっかり撮りきる技術の高い職業監督だと勝手に思っています。
そんなわけでジェームズ・マンゴールドだからといって安心せず、まったく期待せずに「ナイト&デイ」を軽く観てみたんですが。
いやはやこれは意外にいけます。なるほどなあそうきたかと感心しきり。大ヒットしたかどうかしりませんがじわじわとファンを獲得していると思われます。
まずは基本的なところから、コミカル・スパイ・ラブ・アクションとして、確実にきっちり作られています。アメリカ娯楽映画として真っ当です。ドタバタやるしカーチェイスあるし展開に次ぐ展開だし、この点に関しては職業人ジェームズ・マンゴールドの腕は確かです。安心して娯楽作品を楽しめます。
しかしそんなことだけじゃない魅力がこの映画には詰まっています。
そもそもトム・クルーズとキャメロン・ディアスというこの微妙すぎる年齢の2人が主人公ですが、これ最初不安だったんですよね。ちょっと老けてきてるし、今更感もあるし、でもですね、それこそがキモだったんですねえ。
この2人が「ナイト&デイ」でやってるのは、「今更」ではなくて「今だからこそ」なんですねえ。
いい年こいて数十年前のようなナイスガイとアイドル少女を演じきります。もはやこれは自分自身のパロディです。
そういう目で観ると、この作品が全体的に80年代に青春だった人たちに向けて作られていることに気づくはずです。いや別にそういう目で見ないでも当時のヒット曲のBGMや80年代パロディで誰でも気づくわけですが。
微妙な年齢のキャメロン・ディアスがドレスを着てはしゃいで少女のように素直だったりするのを見てももちろん、そもそも全体のストーリーを追っていると、この映画が80年代に青春だった人のうち、さらに女性をターゲットとしていることにも気づきます。
眠らされてる隙に世界を駆け巡る出鱈目さ加減や、どんなときでも白馬の騎士的ナイスガイがさくっと登場してくれることや、憧れのヨーロッパ各地の観光めぐりすることや、ピュアな乙女心でうきうきすることなど、この特徴をよーく噛みしめるとまさに少女漫画の世界であることがわかります。
アクション映画としての辻褄とか、そういう理屈っぽいことはどうでもいいのです。この少女漫画的展開は徹底して行われておりまして、ここまで徹すると絶賛したくなります。
そういえばジェームズ・マンゴールドは「17歳のカルテ」でも少女漫画の世界を描ききっています。「17歳のカルテ」は真面目で暗め系ですが、少女心をきちんと撮り上げていました。さすがの技術力。
というわけで、対象年齢40歳以上の人は懐かしく可笑しく哀愁もあり青春もあり、でもまだまだ現役よっ、っていうそういうポジティブな気持ちに浸れること間違いなしの唯単なる楽しいだけの素敵な映画でございました。
かつての女子におすすめ。