ストーン

Stone
仮釈放管理官の男(ロバート・デ・ニーロ)、受刑者ストーン(エドワード・ノートン)、ストーンの妻(ミラ・ジョヴォヴィッチ)管理官の妻(フランセス・コンロイ)らが奏でるクライムスリラー心理劇。
ストーン

定年を間近に控えた仮釈放管理官ジャック(ロバート・デ・ニーロ)。彼の仕事は仮釈放を希望する受刑者と面談して報告書を提出することです。普通の受刑者は管理官の前で良い子ちゃんぶったり心証を良くする演技をしたりするわけで、ベテラン管理官の彼はそういうのに慣れています。
真面目に勤め上げた役人として淡々と仕事をする傍ら、何かしら心理的葛藤を持ち続けています。偽善者であり役人根性の厭らしさを垣間見せながらも真面目で厳格。犯罪者との対話を生業にしてきたためか、どこかしら内に秘めた心の歪みを感じさせます。欠かさずカーラジオで聴く神の教えがこの男にどういう作用をもたらしているのでしょう。

彼が最後の仕事として担当する受刑者ストーン(エドワード・ノートン)は仮釈放を希望しているわりに反抗的で挑発的言動を弄し、若干悪魔的存在感を放っています。
彼がつい漏らす本音の中には何某かの真実が含まれていたり、そうかと思えばただの馬鹿なチンピラ風だったりします。
ストーンは妻にジャックを誘惑するよう命じます。まことチンピラらしい作戦です。
妻のルセッタ(ミラ・ジョヴォヴィッチ)はジャックに近づき、誘惑作戦開始。真面目なジャックは最初は頑なですが、だんだん罠に嵌っていくような案配です。

ここで受刑者の妻ルセッタが複雑な人物像をあらわにして来るもんだからだんだんと話がややこしくなってきます。
管理官ジャックは定年を目前にたがが外れ、受刑者ストーンは面談を繰り返すうちに徐々に性質が変わり、ストーンの妻ルセッタは魔性を発揮し始め、そして管理官の妻マデリン(フランセス・コンロイ)は寡黙な日常の中で強いストレスを膨らませてゆきます。
重苦しい展開に良心を揺さぶれ胸騒ぎがおこります。

と、そのような映画でして、いわゆるスリラーやサスペンスではなく心理劇と呼ばれる類の作品です。
人物を掘り下げ、葛藤を表現するこの手の映画は大抵の場合舞台劇が原作だったりしますが本作もその通り、アンガス・マクラクランが舞台劇用に書いた脚本を元に作られたそうです。
ある種の舞台劇は、言葉と言葉の応酬、心理と葛藤、多重で複雑な人物造型が特徴、そしてそれを全身で表現する役者の演技が不可欠です。
この作品もスター共演による名演技がやはり見物となっておりまして、いやぁさすがですね。
受刑者ストーンの飄々とした造型も大したもんです。むかしのショーン・ペンを思い出します。

ときどきこの手の心理ドラマが米国映画には登場しまして、どれも結構深みがあっていい作品が多いです。
最近ではメリル・ストリープの「ダウト」がかなり力強い傑作でした。

映画宣伝的にはロバート・デ・ニーロ、エドワード・ノートン、ミラ・ジョヴォヴィッチの3人を全面に出してますが、管理官の妻を演じるフランセス・コンロイも外せません。この4人は同列と言ってもちょい過言。
フランセス・コンロイ、最近では「シェルター」である人物の母親役をやっていて、これがなかなか印象深かった。こういうやつれた役がよくお似合いの女優ですね。「ストーン」でもそれとなく重要な演技をやっておられまして、映画に深みを与えています。

出演者の名演技合戦、緊張感漂い良心に挑戦する優れた脚本、じっとり見せる演出、余韻を残すラストまで、舞台劇風心理劇の名に恥じない価値ある出来映えでした。

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