サベイランス

Surveillance
殺人事件の捜査のため田舎の警察へやってきたFBI捜査官のエリザベス(ジュリア・オーモンド)とサム(ビル・ブルマン)。悲惨な事件の生き残り三人にそれぞれ別室で事情聴取を行い、事件の全容を聞き出そうとする。
サベイランス

デヴィッド・リンチの娘、ジェニファー・リンチによるナチュラルスリラー。ナチュラルって何だろう。
製作総指揮はデヴィッド・リンチで、リンチっぽいテイストもちらほら。

覆面をかぶった猟奇殺人鬼が出没している模様。冒頭は殺人鬼の紹介を兼ねた暗闇での犯罪シーン。
本編は二人のFBI捜査官が場末の警察署へやってくるところからです。
どうやら、殺人鬼に絡んだ事件が起こった直後らしく、警察署にはその事件の生き残りが3人保護されています。その三人とは、署の警官、幼い女の子、ジャンキー娘です。FBI捜査官は三人を別々の部屋で事情聴取、撮影も行います。
この作品は、三人の生き残りのそれぞれ証言から回想形式にて事件の全貌を描き出す構成になっております。三者それぞれの視点からの事件描写に期待。

ところが、その期待がわりと期待はずれ、というと失礼ですが、どれほど恐ろしい事件が起きるのだろうと思ってるとこれが実はあまり大したことないというか、期待ほどでもないというか、普通というか、ちょっとそんな感じがします。三者による回想形式に期待しすぎたせいもあるかもしれません。三者それぞれの視点というのが事件描写にあまり生かされてないし。と言っても、ショックシーン含めて、面白くないわけではありませんよ。十分にインパクトはあります。期待のしすぎさえなければ全然悪くないす。むしろ良いです(←日和ったな)

期待しすぎて普通だったとか失礼なことを書きましたがこの映画はそういった普通の楽しみだけを目論んでいるのではないのでそんなことは些細なことなのです。ストーリーは普通ですが演出が普通じゃない。ここです。ここ大事。真っ当サスペンスではなく、演出や映像こそが見どころです。伊達に父ちゃんが製作総指揮にクレジットされてるんじゃありません。

序盤の警察署シーンからしてもう発揮されています。変態的演出が。FBI捜査官の二人を始め、警察署内の署長や警官ども、登場人物の全てが変態的に変な奴です。画面はざらついたカラー処理、カメラは傾いたりゆらゆら揺れる泥酔系不安感度増感撮影、警官どもは躁病のチンピラとゴロツキ、FBIのおっさんは目つきが逝っちゃってる狂人、その中でまともな人間は麻薬中毒の女とショック状態で無口の少女ぐらいです。いいですね、この人物設定。

この、登場人物全員変+船酔い撮影+不安増幅カラー処理のトリプルリンチズムが作品全体を支配していてなかなかいい感じですよ。やたらと上手な壁画がある部屋がしつこく映るのもいいです。車三台が縦に並んでいる構図もすごくいいです。空もいいです。説明的で何の面白みもない事件前の各人の会話シーンもうつろでそれはそれでよいです。

さてここでちょいと気になった話を。映画を見終わってちょこちょこ検索してみれば、腑に落ちない記述に出会いました。
複数の人たち評論家や映画紹介で見かけた腑に落ちない記述とは、この映画が「羅生門」的であるという説明です。
確かに、ひとつの事件を複数の目撃者が語るっていう点だけは共通していますが、あとは何も似ていません。事件について嘘をつくわけでもなく、三者が別々の認識をしているわけでもなく、観客を翻弄するわけでもない。確かに、自分に都合の悪いことをセリフとしては語っていなかったりはしますが、セリフの続きとして回想シーン(神の視点)が入りますから語ってるも同然です。ま、とにかく普通に観ただけでは「羅生門」をイメージすることはないんです。
ところがなぜ紹介文やレビューに「羅生門」が頻出するのか。
まずひとつは、配給会社の資料にそう書いてあったのではないかという疑いです。
もしそうなら配給会社の宣伝部隊、いい加減な仕事するなあと思います。そしてその資料を見て、自分が見てきたかのように「羅生門」を引き合いに出す評論家もいい加減な仕事するなあと思います。
もう一つの可能性は、ジェニファー・リンチ監督が自ら「羅生門」について言及した、つまり作品の狙いとして「羅生門」的なるものを最初から含めていたという可能性です。
もしそうならジェニファーさん、あなたは目論見に失敗していますと言います。
先ほども書いたように、3人の目撃者がそれぞれ嘘を交えた証言をすることによる事件の不透明性ってものは全くありません。0です。極めて真っ当にわかりやすくひとつの事件を三人が語ります。そこに疑問が生まれることはありません。「羅生門」的にやるのなら、もっと各人に嘘をつかせないといけないし、それ以前に証言の直後に神視点による事実の映像を挟んではいけないのです。

と、まあ間接的な評論や紹介文に噛みついても何の意味もありませんですね。失礼しました。
いずれにしても、三人の証言者の語る事件の全貌っていうのがこの作品の全てではもちろんありませんので、大きく取り上げるようなネタでもなかったですね。

後半にはちゃんと展開して不愉快度をさらにアップさせてくれますし、ラストへの展開もとてもいい感じです。

この作品は変でキモい登場人物たち、画面の映像処理、不安感カメラによる撮影を楽しむ映画です。エンドロールで流れる曲は父ちゃんの映画で使われそうな曲でした。

お綺麗なアンダーソン捜査官を演じたジュリア・オーモンドは「インランド・エンパイア」にも出演しています。最近では「チェ 28歳の革命」「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」に出ておられますね。この人、いいですね。

サム・ハラウェイ捜査官を演じきったビル・プルマンは「ロスト・ハイウェイ」にも出ていた人ですが「インデペンデンス・デイ」で大統領役をやった人ですか。へえ。あっ。「ディア・ウェンディ」に出演されてましたか。あぁ、あの役かあ。なるほどー。ははあ。

署長を見て「はて。よく知っている人だ。誰だっけ誰だっけ。知り合いか」などと思っていたら、このひとマイケル・アイアンサンドさんは映画やテレビに出まくりの売れっ子、古くは「スキャナーズ」から「トータル・リコール」、「マシニスト」などなど、長い付き合いじゃん。よく知ってる人と思って当然でした。個人的には「スターシップ・トゥルーパーズ」の片腕のラスチャック先生が強く印象に残っています。そういや「マシニスト」でも腕が切断されていました。腕、大丈夫ですか。

腕を大切に

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